WebAssembly(Wasm)の最新技術動向、Wasm 2.0、コンポーネントモデル、WASIがもたらす未来 | 大阪のホームページ制作会社 株式会社TREVOのスタッフブログ

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WebAssembly(Wasm)の最新技術動向、Wasm 2.0、コンポーネントモデル、WASIがもたらす未来

2025.01.20.

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WebAssembly(Wasm)は、近年ますます注目を集めているウェブ技術です。かつてはブラウザ上で動作するプログラムを作る際、多くの場合JavaScriptが用いられてきました。しかしJavaScriptには実行速度に限界があり、複雑で大規模なアプリケーションには不向きという課題がありました。

Wasmは、そうした性能面の問題を解決するために開発されました。CやC++、Rustなどのさまざまなプログラミング言語で書かれたコードをブラウザ上で動かせるようにし、しかもバイナリ形式であることでJavaScriptよりも高速に実行できます。JavaScriptを「脚本」と考えると、Wasmはコンピュータが直接理解できるバイナリコードで書かれた「舞台装置」のような存在です。人間には読みづらいものの、コンピュータはそのまま実行できるので動作が速いのです。

また、ブラウザを一つの「舞台」と見立てるなら、Wasmは既存のJavaScriptなどとともに演じる新たな役者ともいえます。とりわけ高いパフォーマンスが求められる処理や高度な演算を担う場面で力を発揮するため、ゲームや画像処理、動画編集など多彩な分野での導入が進んでいます。

WebAssemblyの基礎

高パフォーマンス

Wasmはバイナリフォーマットとして提供されるため、テキスト形式のJavaScriptに比べて読み込みや実行が非常に速い点が特徴です。実際の速度テストでもWebAssemblyがJavaScriptより優れたパフォーマンスを示す事例が多く報告されています。

移植性

Wasmは主要なウェブブラウザで実行されるため、異なるプラットフォームやデバイス間でも同じコードを再利用できるメリットがあります。

安全性

Wasmはサンドボックス化された環境で動作するので、実行時に外部へ及ぼす影響が制限され、セキュリティリスクを最小限に抑えることができます。

多言語対応

C、C++、Rustなど、多岐にわたるプログラミング言語をWasmにコンパイルできるため、開発者は自分の得意な言語を活用しながら、高速で安全なアプリケーションを作り上げることが可能です。

WebAssemblyの制約

WebAssemblyはC++やRustなどの言語で書かれたプログラムをブラウザ上で動作させる技術ですが、いくつかの制約があるため、すべてのソフトウェアを移植できるわけではありません。以下では、具体的な制限や向き不向きについて解説します。

WebAssemblyの制限

ブラウザのセキュリティサンドボックス

WebAssemblyは安全性を確保するため、ブラウザのサンドボックス内で動作します。その結果、ローカルファイルへの直接アクセスや任意のシステムコールといった操作は基本的に制限されます。

DOM APIへのアクセス

WebAssemblyは単独ではDOMを操作できません。GUIの操作などが必要な場合は、JavaScriptを仲介役としてDOM APIにアクセスする必要があります。

スレッドの制限

ブラウザのスレッドモデルに従うため、いわゆるマルチスレッドプログラミングには制約があります。近年はWeb WorkersやSharedArrayBufferなどが整備されつつありますが、依然として完全な自由度はありません。

WebAssemblyで動かしやすいソフトウェア

計算処理が中心のソフトウェア

画像や音声の処理、ゲームエンジンなど、CPUへの負荷が大きい分野では、WebAssemblyの高速性を活かせます。

既存のC/C++ライブラリ

もともとC/C++で書かれたライブラリをWebAssemblyにコンパイルすれば、ブラウザ上でもその機能を再利用できるため、導入が比較的スムーズです。

WebAssemblyで動かしにくいソフトウェア

OSに深く依存するソフトウェア

デバイスドライバや頻繁にシステムコールを利用するプログラムは、サンドボックス環境下では動作させるのが難しくなります。

複雑なGUIを持つソフトウェア

DOM APIへの直接アクセスができず、JavaScriptを介さなければならないため、大規模かつ複雑なGUIを完全にWebAssemblyだけでカバーするのは困難です。

WebAssemblyは、ブラウザ上で動作するソフトウェアの可能性を大きく広げる反面、万能な解決策ではありません。ソフトウェアの特性やブラウザの制約を十分に理解し、WebAssemblyが適している分野とそうでない分野を見極めることが重要です。

最新技術動向

WebAssembly 2.0の特徴

Wasm 2.0は2022年4月からドラフト段階にあり、SIMD関連の命令や新しいv128データ型、複数の戻り値を返せる関数、メモリの一括初期化・コピーなどの機能が追加される見込みです。これらの拡張機能によってWasmのパフォーマンスは一層高まり、より複雑なアプリケーションの開発が可能になります。
Wasmはオープンなウェブ標準として策定されており、ChromeやFirefox、Safari、Edgeなど主要なブラウザでサポートされています。標準化が進むにつれて、ブラウザやデバイス間でWasmがシームレスに動作する環境がますます整っていくでしょう。

コンポーネントモデルの説明

コンポーネントモデルは、Wasmモジュールの再利用を容易にするために提案された新しい仕組みです。COMやCORBAのように、異なる言語で書かれたモジュール間で構造体や関数をやり取りできるようになります。
このモデルが普及することで、開発作業の簡素化やコードの再利用が進むだけでなく、異なるWasmモジュール間の相互運用性が高まると期待されています。

WASI (WebAssembly System Interface)

WASIは、Wasmモジュールがオペレーティングシステムの機能にアクセスするための標準インターフェースです。これによりファイルシステムやネットワーク、メモリなどへ直接アクセスでき、ブラウザ以外のサーバーサイドやエッジ環境など多彩な場面でもWasmを実行できます。
特にHTTPやファイルシステムなどへのI/O提案は、開発者にとって重要なポイントです。WASIによって、Wasmはブラウザの枠を超えてさまざまな環境でスムーズに動作し、システムリソースへの直接的なアクセスを可能にします。

WasmEdge

Wasmer Edgeは、Wasmランタイムを基盤としたクラウドプラットフォームです。Kubernetesなどのコンテナ技術をよりシンプルかつ安全にした仕組みを目指しており、スケーラビリティと回復力を両立する構成が特徴です。CやRust、JavaScript、Pythonなど、Wasm/WASI(X)対応言語を使ってアプリケーションを開発できます。
Kubernetesのようなコンテナ技術と比べ、より簡素で安全な運用を実現することを目指し、将来的にはオープンソース版の提供やオンプレミスでの運用にも対応する計画が進んでいます。

解説

WebAssembly(以下、Wasm)はブラウザでの高速実行を可能にする技術として有名ですが、実際にはサーバーレスやブロックチェーンなど多岐にわたる分野で活躍しています。ここでは、その具体例を順にご紹介します。

ウェブアプリケーション

Google EarthやFigma、eBayなどの著名なウェブサービスでWasmが使われています。たとえばeBayでは、サイト上にバーコードスキャナーを実装する際にWasmを活用し、より高速かつ安定した機能提供を実現しています。ブラウザ上で重い処理を行う必要があるサービスにとって、Wasmの高いパフォーマンスは大きなメリットとなっています。

ゲーム

Unityなどのゲームエンジンが、ブラウザ向けに高性能なゲームを開発するためにWasmを利用しています。従来、ブラウザゲームはパフォーマンス面で制限がありましたが、Wasmの登場によってPCやスマートフォンのブラウザでも滑らかに動作するゲームを作れるようになりました。

サーバーレス

SpinやSpinKubeといったプロジェクトでは、Wasmを使ってサーバーレスアプリケーションを構築できます。サーバーレス環境では必要なときにだけコードが実行されるため、Wasmの特長である「軽量」かつ「高速起動」が非常に有効に働きます。SpinではWasmを用いたサーバーレス関数を開発できるため、より効率的なサービス運用が可能になります。

AI(人工知能)

Voyなどのプロジェクトで、Wasmを用いたAIアプリケーションが開発されています。AI処理をブラウザ内で完結させることで、ユーザーのデバイス性能を活かしつつ、クラウドリソースへの依存を軽減できます。その結果、ユーザーはサーバーを介さずにインタラクティブなAI機能を体験できるようになります。

ブロックチェーン

EthereumやNEARなどのブロックチェーンでは、Wasmを使ってスマートコントラクトを実行しています。スマートコントラクトは複数のノードで動作するため、実行速度や安全性が極めて重要です。Wasmの高い移植性とセキュリティモデルは、こうした分散型環境でも安心して利用できる基盤として注目されています。

生産性ソフトウェア

iWork 10にWasmが活用されています。文書作成や表計算ソフトなどをブラウザやさまざまな環境でシームレスに使えるのは、Wasmの高い移植性による恩恵の一例です。

データ分析

DuckDBは、Wasmを使って分析用のSQL処理を手軽に実行できるようにしています。追加のツールをインストールすることなくブラウザ上からデータ分析が行えるため、より多くの環境でデータにアクセスしやすくなっています。

プログラミング言語の相互運用性

Lunaticは、Erlangの特徴である高い並行処理機能をWasm経由でほかのプログラミング言語にもたらすプロジェクトです。言語の枠を超えてErlangの優れたモデルを活用できるようになり、開発の可能性がさらに広がっています。

クラウドネイティブ

Kubewardenは、Kubernetes向けのポリシーエンジンとしてWasmを利用しており、大規模なコンテナオーケストレーションでも軽量・高効率にポリシーを実行できる事例として注目されています。

開発ツール

LapceはRust製のネイティブオープンソースコードエディタで、WASIをベースにしたプラグインシステムを備えています。また、macro_railroadはRustのマクロ構文図を視覚的に生成するツールで、Wasmを使ってブラウザ上で高速に処理します。これらのツールは開発者の生産性を向上させ、Wasmのメリットをエディタや開発環境の拡張にも活かしています。

音楽ビジュアライゼーション

Webampでは音楽のビジュアライゼーションをWasmで高速化しており、Project Glitterも同様にWasmを活用したリアルタイムのビジュアライゼーションをブラウザ上で実行しています。かつてはネイティブアプリでしか難しかった高度なグラフィックス表現を、Wasmによって手軽に扱えるようになりました。

オーディオ分析

SciChartsはWasmを利用したオーディオアナライザーのデモを公開しており、リアルタイムで音声波形や周波数解析をブラウザ上に表示できます。音響や音楽関連で要求される軽快な処理に、Wasmがうまくマッチしています。

データビジュアライゼーション

Perspectiveは、ストリーミングデータのピボット集計とビジュアル化をWasm経由で高速に処理するツールです。ブラウザ上でのインタラクティブなデータ分析や可視化が手軽に行えるようになり、リアルタイム性の高い可視化体験を提供しています。

ターミナル環境

ZellijはWasmプラグインシステムを備えたターミナルワークスペースで、CLIとWasmを組み合わせることで軽量なプラグインやカスタム機能を追加しやすくしています。

Webサーバー

mod_wasmはApache HTTP ServerにWasmのサポートを導入するモジュールで、既存のウェブサーバーの拡張としてWasmを利用できるため、開発者は新たな可能性を追求しやすくなります。

セキュリティ分析

ManticoreはWasmをサポートするシンボリック実行エンジンで、セキュリティテストや脆弱性検査の場面でWasmバイナリの解析や動作検証を行うことができます。

Wasmランタイム

WAVMはWebアプリケーション以外でのWasm利用を想定した仮想マシンで、サーバーサイドなど幅広い用途に対応しています。wasmiは組み込み用途に特化した軽量インタプリタで、wasmtimeはスタンドアロンのJITスタイルのランタイムとして知られ、目的やパフォーマンス要件に合わせて使い分けられています。

Wasmバイナリツール

parity-wasmはWasmバイナリを読み書きや再構築するための低レベルライブラリで、wasmparserはシンプルかつイベントドリブンな設計を持つ解析ライブラリです。これらはツールチェーン開発やWasmバイナリのカスタマイズに役立ちます。

その他の活用例

snowhashはハッシュ値からユニークな雪の結晶画像を生成するツールで、wasmboothはRustとWasmで記述されたビデオエフェクトブースです。これらはブラウザ上でリアルタイムに面白い効果や処理を体験できるようにした事例です。また、OwiはOCamlで書かれたWasmインタプリタで、Wasmの動作を学習したり実験したりする場として利用されています。

今後の展望

Wasmはこれからも発展を続け、さまざまな分野での活用が広がると予想されています。

ブラウザ外での利用拡大

WASIの進化に伴い、Wasmの利用範囲はブラウザ以外にも広がり、サーバーサイドやエッジコンピューティング、さらにはIoTなど多様な環境での稼働が見込まれています。

コンポーネントモデルの普及

コンポーネントモデルが普及することで、Wasmモジュールの再利用性が高まり、開発効率の向上が期待されています。複数のモジュールを組み合わせることで、より柔軟なシステムが構築できるようになるでしょう。

新しい標準の登場

Wasm 2.0や他の新しい標準が導入されることで、Wasmの機能が一段と拡張され、今より幅広いアプリケーションの開発が可能になると考えられています。

コンテナの代替としての可能性

Wasmランタイムは将来的にコンテナ技術の代わりとして機能する可能性が指摘されています。軽量かつ高速に起動できる特長が活かされれば、新たなインフラストラクチャの選択肢になるかもしれません。

課題と機会

Wasmのさらなる普及に向けては、優れたツールやデバッグサポートの充実、コミュニティの拡大といった課題があります。しかし同時に、クラウドやエッジコンピューティングなど新たな領域で主導的な技術となり得る大きな可能性も秘めています。

“Write Once, Run Anywhere” の実現

多くの開発者は、WasmがJavaで提唱された「Write Once, Run Anywhere」の理念を改めて実現することに期待を寄せています。

まとめ

Wasmはブラウザでのアプリケーション高速化にとどまらず、サーバーサイドやIoT、ブロックチェーンなど多彩な分野で活用されている注目の技術です。Wasm 2.0やコンポーネントモデル、WASIといった新しい機能が追加されることで、今後も進化を続け、多くの開発者に使われるようになると期待されています。その優れた移植性やセキュリティ、パフォーマンスは、さまざまな業界やアプリケーションに大きな影響を与える可能性があります。

W3C WebAssembly Working Group

W3C WebAssembly Working Groupは、Wasmの標準化を推進する組織です。サイズ効率やロード時間に優れたフォーマットや実行環境の共通仕様を定め、異なる実装間でも一貫して動作するよう整備することを使命としています。
このワーキンググループの対象範囲は幅広く、3Dゲームや音声認識、各種コーデックなどネイティブパフォーマンスが必要とされる分野全般におよびます。また、高性能コードを動かすための共通メカニズムを、他の領域でも活用できるようにする活動も進められています。

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板浪雅樹 のアバター

経歴: 映像制作の専門学校を卒業後、映像制作(編集・撮影)でのアシスタント、カーナビゲーション用の3DCG制作、PS2用の3DCGゲーム背景制作、16ミリフィルムのデジタル変換業務等を経てWEB制作部門のある会社に就職。株式会社TREVOでディレクション、SEO対策、CMS開発、3DCG制作、映像制作を担当

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